「幾らなんでも、あの起こし方はないでしょ~」
賑やかな城下町の露店通りに不機嫌そうな靴音が響いた。
見ると、周りの町人とは異なる雰囲気の影が二つ、眩しく振り注ぐ日の光を遮るように露店の屋根下を歩いているではないか。その前を颯爽と闊歩する影が応えて、
「何時迄も寝ているからだろう」
「ええ~? 俺、瀕死で気絶してたんだけど? そんな可哀想な俺の頭を蹴っ飛ばして起こすのは如何なものかと思うんだけど。“ あいつ ”お前さんの知り合いなんでしょ? ちゃんと叱ってやってよ、人生の先輩としてさ」
納得がいかないと言わんばかりに、“ ぶつぶつ ”と愚痴る影。それを受け流すように、
「あの状況下で“ いびき ”までかいておきながら、瀕死も何もあるまい」
と、溜め息を吐きつつ、足早に日陰から出て来た者はどうやら騎士のようである。腰に携えた二振の剣、見上げる程の長身に白銀の鎧を纏い、腰まである長い髪は日の光に銀色に輝いている。中でも目を惹くのは、身惚れる程に整った顔貌であろう。だが、その顔は背に聞こえる粘り強い愚痴に“ うんざり”と歪められている。
次いで姿を現した片割れは、両甲に鍵爪を伸ばした全身黒ずくめの男、此方はラディであった。と、すると、先の片方は、
「バルトルトさん!」
不意に声が響いた。その呼び止めに振り向いたのは、ラディと共に歩いていた白銀の男である。釣られてラディも足を止める。駆け寄って来た小柄な影は、肩で息を整えるや勢い良く頭を下げた。
「あ、あの! その節は、有り難うございました!」
張り上げられた声に、白銀の男は目を細めた。それに慌てて日陰から姿を見せたのは、おかっぱ頭に修術士が纏う麻の服、手には粗末な木の杖を一本握り締めた少女、ログリアである。白銀の男は少女の姿に顔を緩め、
「ああ、君か」
「は、はい! あの時は色々とお骨折り下さりありがとうございました!」
“ そ、それから ”と、ログリアは申し訳なさそうに俯き、
「あ、あの、私、貴方 があの騎士団長のバルトルトさんだと知らなくて………、自分の我儘に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」
再び深々と頭を下げるログリアに、白銀の男は爽やかな笑い声を上げた。
「なに、私は任務を成したまでだ。何より、君の力が無くば、あの亡霊を退治する事は出来なかったのだから。此方が感謝こそすれど、君が謝る道理は無かろう」
それに釣られて、思わずログリアも口元を緩めた。話から察するに、やはりこの白銀の男は“ あの時の汚らしい男 ”のようである。白銀の男、いや、バルトルトは苦笑混じりに続けて、
「しかし、あの時は驚いた。我ら騎士団のみで内密に進めていた“ 廃城壁の件 ”に、君が突然現れたのだからな。院長殿の地獄耳には敵わん」
「まあまあ、終わり良ければ全て良し、ってやつでしょ」
耳元で空元気な声を出すラディに、バルトルトは煩そうに再び眉根を寄せる。それを他所に、ラディは辺りを落ち着き無く見渡すや、
「あれ?“ あいつ ”は?」
小首を傾げるログリアにラディは付け足して、
「あの後、俺の頭を思いっっきり蹴っ飛ばして起こしてくれた、ログリアちゃんの乱暴な幼馴染」
成る程、先程の愚痴はそういう訳であったのか。“ ああ ”と合点したログリアは徐に後ろを振り返る。釣られて少女の視線の先を見ると、ふいに日陰からもう一つ、影が出て来たのである。
「誰が乱暴だって?」
顔を見せるや否や、ラディに喰ってかかったのは、あの時、骨と皮だけで辛うじて息をしていた少年であった。まるで気性を表しているかのように短く立った赤髪、一点の曇り無く気力に満ちた同じ紅蓮色の眼。軽く麻服の袖を捲り上げ、顔と言わず身体と言わず付いた切り傷に無造作に張った血止めの布が、見るからに活発である事を語っているようだ。しかし助け出されて幾日経ったのであろうか、正常に肉の付いた身体は、もはや十年もの間、亡霊に取り憑かれていたとは思えぬ程の快復を見せている。これも、あの時ログリアが呼んだ“ 白い光 ”の賜物であろう。
ふいに凄むようにラディの眼前へと己の顔を近付ける少年。それに負けじと睨み返すラディの頭へ、バルトルトの拳が振り落ちた。短く呻いて頭を抱える親友を他所に、バルトルトは腰に携えた二振の剣の片方を掴むと、それを少年へと差し出した。
「もう大丈夫だろう。光の精霊の加護のおかげだ。むしろ“ 以前にも増した ”と言えるかもしれん」
その剣は、あの時終わりを迎えかけた“ 聖剣 ”である。おそらく、あの後直ぐにバルトルトによって然るべき場所へ運ばれ、聖剣も又、“ 療養 ”していたのかもしれない。そしてようやく手元へと戻って来たのであろう、少年は“ 待ちに待った ”と言わんばかりの笑顔で 剣を受け取ると、ふと、その鞘へと括り付けられた背負い帯に気が付いた。なんと立派な帯であろうか、一目で高価だと分かる茶黒く分厚い帯には、彼方此方に金細工の補強が施されているのだ。だが、少年が目を止めたのは、そんな事にでは無い。鞘へと括られている布の一点、一際長く据え付けられた刻印にだ。
そこには“ ヴィルフリード”と、彫られている。
「君の名だ」
その声へ弾かれたように顔を上げた少年の目に、全てお見通しだと言わんばかりに微笑むバルトルトが映った。思わず少年は照れ臭そうに頭を掻きつつ、
「覚えてくれてたのか」
「忘れる筈があるまい、ただ一人、いつも私の稽古を見つめてくれていた“ 君の名 ”を」
思い掛けぬ事であったのだろう。いつも大切に握り締めていた剣は、謂わば、いつも憧れに見つめていた騎士から貰い受けた宝物であったのだから。そして、
「強さとは力ではない」
「……意思の強さが力」
繋げられた言葉に、バルトルトは少年へ頷く。それもまた、幼き昔、授けられた言葉であったのだ。その言葉を忘れずにいたからこそ、城壁で亡霊に取り憑かれながらもバルトルトの前へと意識を現す事が出来たのかもしれない。その誇り高き言葉を胸に刻んでいたからこそ、十年もの間、悍ましい亡霊に屈する事なく聖剣を握り続けられていたのかもしれない。それは聖剣の力のおかげだけではなく、紛れも無い少年の意思の力であっただろう。
「それを君は証明したのだ」
滲みかけた涙を拭う少年にバルトルトは続けて、
「その帯は我が騎士団の証。君には受け取る資格が十二分にあろう。受け取りたまえ―――――私と共に剣を取るのならば」
突然の誘いに唖然と口を開けて自失した少年、いや、ヴィルフリードは、ログリアに慌てて小突かれ我に返るや、勢い良く首を縦に振った。それに満足そうに頷き返すバルトルト。
ログリアもまた、二人を、信じられぬ喜びに打ち震える幼馴染を心底嬉しそうに見つめる。もはや会えぬと覚悟をしていた笑顔が、今、目の前に在るのだ。それもこの上無い程の結末を迎えて。少女は“ これ以上の幸せは無い ”、そう言わんばかりの清々しい面持ちで、只々、笑顔を綻ばせる。これが泣く事は勿論、笑う事すらせず、ひたすら投げつけられる黒い感情と己の弱さに震える足を叩き続けていた、あの“ 落ちこぼれのログリア ”だなどと、誰が思えようか。守り抜くべき約束を忘れぬ為に、その守ろうとする心の芯を折られてしまわぬ為に、十年もの間、少女は感情を押し殺してきたのだが最早その必要は無くなったのだ。これが少女の、ログリアの本来在るべき顔であったのだろう。
幼子さながらに、輝かしい帯を纏わせた剣を振りかざしてログリアへと燥ぎ騒ぐヴィルフリードと共に、ログリアも同じく翳りなく笑い燥ぐ。
それを変わらず満足気に見守るバルトルトと、“ 何はともあれ ”と釣られて笑いながらラディは頷いた。
そんな賑やかさに気付いてか、誰かが囁いだ。
「ねえ、あの子、教術院の」
ふと聞こえてきた声に、ログリアの身が固まる。僅かに其方を見ると、街娘が二人、何やら此方を、いや、ログリアを凝視しながら囁き話をしているようであった。十年もの間、常に嘲笑されてきた反射故か、そこから逃げるように後退りかけたログリアを引き留めたのはバルトルトである。白銀の騎士団長は戸惑うログリアに頷いて見せた。“ 聞いてみよ ”と言う事であろうか。
戸惑うログリアの様子にヴィルフリードは不穏な空気を察してか、己の無二の親友を種に囁いでいる娘達へと乱暴に足を向け掛け、此方もまた、ラディに首襟を掴まれた。不意に劈のめる様に止められた少年は、直様とラディへ苛立った口を開きかけたが、その口元に人差し指が立てられている事に気付いて、言葉を飲み込む。思わず従ったものの、納得がいかなそうに睨む少年へ、ラディは“ したり顔 ”で町娘達とログリアへ顎を斜くって見せた。
そんな事には露も気付かず、街娘達は囁き続ける。
「何よ急に、あの子がなんなのよ?」
「知らないの!? “ 教術院のおかっぱ頭の少女の話 ”! まさか有名な噂なのに知らないなんて本当~?」
“ ああ、やはりまたか ”と、ログリアは聞き慣れた嘲笑を予期して目を瞑る。が、
「し、知ってるわよ! ログリア“ 様 ”の話でしょ! 騎士団に同行されて、凶暴な亡霊を退治なさったって云う!」
それに思わず目を開けたログリア。次いで聞こえたであろう呼び名に耳を疑う。聞き覚えのある嘲笑どころか、全く話しの流れがいつもと違うようである。
どういう事であろうか。ログリアは、予測出来ぬ始めての噂話に改めて耳を澄ました。
「なんだやっぱり知ってるのね、つまんな~い」
「ふふん、当たり前でしょ。もう有名な噂なんだから! イリーゾヘーラどころか、隣村にだって聞こえてるわよ!」
「それもそうよね、なんてったって我が国が誇る最高の術士様ですもの」
「そうそう、一人で四つの精霊を呼び出した上に、あの光の精霊をも喚び出されたって言うんだから!」
「凄いわよね~、今までどんな術士でも光の精霊を喚び出せた者はいないって話なのに」
「何でも、騎士団付きの王国術士にって話しが決まったそうよ」
「え! 本当!? 流石ログリア様ね~! でも当たり前かぁ、だって十年間、教術院でも常に一番を譲らぬ秀才だったって話なんだから!」
「ログリア様と言えばさ、亡霊から救い出された幼馴染のヴィルフリード様、この方もお二人揃って光の精霊に選ばれたんですって、ロマンティックよね~」
「ええ~! 羨ましいなぁ~、それって“ 精霊騎士 ”として精霊に選ばれたって事でしょう!? 私も一度でいいからなってみた~い」
「無~理無理無理~、あんたなんてログリア様みたいに精霊も喚べなけりゃ、術書だって読めないじゃないの。第一、光の精霊自体に会えなきゃお話にもならないし。何よりよ?
精霊騎士になったら世界中の災厄へ向かわなきゃならないんだから、甘えん坊のあんたには絶っ対に無理無理~」
「む、無理矢理うるさいわね! いいの! ただの憧れなんだから!」
「あはは! 確かに憧れよね~! あ~、ログリア様みたいに私も成りたいなぁ~」
と、街娘達は予想外に明る気な笑い声を上げるばかりだ。そうして、ふとログリアと目が合うと、何やら恥ずかしそうに“ はにかみ ”ながら何処かへ駆けて行ったのであった。その様子に、ログリアは只々眼を丸くする。それは今までと全く違う噂話であったのだから無理もあるまいが。まして、ログリアが王国術士にと言っていたのだ。今まで何十年ものあいだ新しく選ばれる者のいなかった、あの“ 王国一の称号 ”と謳われる王国術士にと。
ログリアは自分の耳を疑うかのように、唖然とした眼をバルトルトへと向けた。それにバルトルトは少女の困惑を掻き消すように頷くや、
「着任式の日取りが決まってから教えようと思っていたのだが―――君の他に務まる者などおるまい」
夢であろうか、何もかも夢ではあるまいか、と、まるで、今此処にいる己が現実であるのか、これが全て本当に現実であるのか確かめるように彼方此方を見回すログリアの耳に、ふいに、
「あ! ログリア様だ!」
と、またしても知らぬ声が響いた。それにログリアが驚く間も無く、何処から共無く誰から共無く湧き上がる歓声と拍手の嵐。少女の眼に映ったものは、祝福の眼差しで微笑んでいる街人達の姿、傍らで昔と同じく“ やんちゃ ”そうな笑顔を浮かべている大切な幼馴染の姿。そして、まるで我が子の成長を誇らし気に見守る父親のような微笑を綻ばせたバルトルトとラディの姿であった。
夢ではない。
十年間少女が居た世界ではない光景が此処にあるだけなのだ。鼓膜が裂けんばかりの祝福の歓声の中、矢継ぎ早な出来事にログリアは感情が追い付かずに唖然と立ち尽くす。
「もはや君を笑う者など、何処にもおらん」
ふと掛けられた優しい声に、また少女は唖然としたままバルトルトを見上げた。その顔は、実感など湧かぬ様子のままだ。しかしバルトルトは、そんなログリアへ穏やかに笑み崩すや小さな背中を送り出す様に優しく叩いた。
「君が君の世界を変えたのだ、胸を張って行きなさい」
その言葉に、突然とログリアの手を握り締めたのはヴィルフリードであった。
「行こうぜ!」
言うが早いか、少女が驚く間も無く歓声の中へと駆け出したヴィルフリードに引かれるまま、ログリアも転がるように走り出した。困惑に更に困惑しながらも、色々な意味であろう、恥ずかしさに耳まで紅潮させるログリア。だがその顔は、やがて満面の微笑みを浮かべたのだった。
動き出したのであろう、刻が。止まっていた少女の時間が、世界が。
楽しそうに笑い合いながら、二つの背中は人混みに紛れ見えなくなっていく。
それを見送りながら、何方からとも無く、また、バルトルトとラディは露店外を歩き出した。ラディは、すでに遠く見えなくなっていく楽しそうな二つの背中を見つめながら、
「あ~あ、あの二人はあんなに幸せそうなのに、俺達は今から何時間かかるかもしれないボルじいさんのお説教だよ、やんなっちゃうね~」
「ああ、その件だが、ボル殿に相談したら、近いうちに抱えの大工職人達で、あの物騒な呪物庫は取り壊してもらえるそうだ。元々、臭い物に蓋をするかのように、あのような隠し部屋をその儘にしていた事自体が、良くなかった。今回の亡霊騒ぎも、それが招いた結果なのだからな」
「でも、おかげで精霊騎士を二人も見つけられたわけなんだし、結果としては万々歳でしょ」
「私も同じ意見だ。まあ今回は、その為の説教だと考えれば仕方あるまい」
「いや、それは仕方無くないからね? 誰かさんが後先考えずに壁一面破壊したせいで、俺まで巻き添え喰うんだからね?」
「親友だろう、水臭い事を言うな」
「こんな時ばっかり“ それ ”だもんな~」
“ 勘弁してよ、もう ”と、ラディは心底嫌そうに頭を掻き毟る。何だかんだと言いながら、意外と相性の悪く無い二人の様子に、擦れ違う町人達は和ごまし気に微笑みながら通り過ぎていく。
ふと、思い出したようにラディが“ そう言えばさ ”とバルトルトを見た。
「なんであげちゃったの?あんな大層な代物」
何の事かと眉を顰めかけたバルトルトは、しかし腰の剣を指差されて、ようやく“ ああ ”と解して苦笑する。
「私には“ 抜けなかった ”のだよ」
不甲斐なさそうに肩を竦めて見せる親友に、ラディは気が無さそうに鼻で唸って返した。
「でも、あれって親父さんの形見だろ? なのにさ」
「私が選んだわけでは無い、“ 聖剣 ”が選んだのだ。あの子をな」
「お前の方が随分使いこなせるだろうに?」
「いや、きっと彼は、此れから私などよりも相応しい使い手になるだろう」
ラディは到底そうは思えぬと言わんばかりに頭を捻る。そんな黒尽くめにバルトルトは続けて、
「亡霊に取り憑かれながらも彼は私に会いに来たのだよ。おそらく、無意識にも聖剣に宿る精霊の力を使ってな」
「そ、そんな事も出来ちゃうのか、聖剣て」
「分からん。だがルーベルクの様なうつけ者を寄せ付けぬ為にか、呪物庫の入り口へフィルボルグの屍も積んでいたようだな。十中八九、あれも彼の仕業だろう」
「……ま、マジでか。だったら、あいつが聖剣を使いこなせる様になったらさ、この世界の混沌も何とか出来ちゃうかもって事か?」
「さてな」
つまりは使う者次第、と言う事なのかもしれぬ。ラディは再び鼻で頷きながらも、しかし、“ でもさ”と、またもや喰らい付く。いよいよ執こい相棒へ、バルトルトは眉根を寄せる。
「まだ何か有るのか?」
「俺はかえって良かったよ」
突拍子の無い返事であった。何が良かったと言うのか、まるで解せぬ返答にバルトルトは深々と眉根を寄せてラディを見やる。それにラディは“ にやり ”と笑うや、
「お前が精霊に選ばれてたら、こうして一緒に居れなかったかもしれないもんな」
屈託無く洩らされた親友の想いに、一瞬の間、不意を突かれて思わず耳を赤くしたバルトルトをラディは見逃さなかった。
「ああ~! 照れた~! 鬼の騎士団長が照れたよ~!」
直ぐ様面白そうにからかい始めたラディに、バルトルトは流れるように抜刀するや躊躇無くラディ目掛けて振り下ろした。それを軽々と飛び除けながら、この時とばかりに尚もラディはバルトルトをからかい続ける。が、殺気の篭る刃に気付いたのであろう、静かに後退るや慌てて人混みへと駆け出したではないか。それを寸分違わず追いかけ出したバルトルト。その手に握られた刃が、素早く空払われる。まさに獲物を仕留める前の合図であろう。青醒めて全速力で逃げるラディ。“ 今日と言う今日は本当に勘弁ならぬ ”と言わんばかりに、鬼のような形相で追いかけるバルトルト。それに人混みが慌てて真ん中から割けるや、瞬きもせぬ間に遠く消えて行く二人に、また、ゆっくりと元に戻る。
その光景を人混みの中から見ていたのは、ログリアとヴィルフリードだ。まるで二桁も行かぬ子供さながらに本気で追いかけ合うバルトルトとラディの姿。
それに二人は顔を見合わせるや、申し合わせたように吹き出した。
その彼方から、鬼の逆鱗に触れたラディの、慌てて弁解するも叶わぬ悲痛な叫びが響き渡ったのは、言うまでもあるまい。